「いろいろな場面での出会いがすべて自分の財産になるはず。生きている限りは多
様な考え、価値観をリスペクトしながらさまざまなことを経験し続けたい」
地方公務員、金融機関、MBA、コンサルティングファーム。多様なキャリアを描
いてきた。「MBAだからという枠で自分の人生をガチガチにしたくない。もっと自
在な生き方をしたい。さまざまな経験をしたことで、自分の興味が広がっただけ」
地方公務員から金融業界へが最初の転機。「とにかく動きが早い。案件が続々上がっ
てくる。期待通り刺激の連続」。金融の専門知識は独学で身につけクリアした。語学
力の不足も英会話学校に毎日通うことで補った。しかし、興味が上がるに連れて、現
状のままでは満足できない自分がいたことに気付く。
「ビジネスを統括的に学ぶ必要を感じた。また、金融だけでなく、組織、マーケティ
ングなど一通り学ぶことは将来必ず役立つはず。MBAにチャレンジしたい」。同僚
にビジネススクールの卒業生がいたこともあって、MBAが身近な存在に思えたこと
も要因だ。決めたのは退職の前年であった。
入学したのはシカゴ大学経営大学院。数学万能というイメージで知られ、数多くの
金融や経営戦略の専門家を育成してきた名門ビジネススクールだ。「金融をベースに
ゼネラルマネジメントを学びたい」というのが狙いであった。
シカゴでの2年間の厳しい学習は必修プログラム「LEAD(Leadership
Effectiveness and Development)」で幕を開けた。グループ単位でチーム構築の
練習をしながら、リーダーシップ・コミュニケーション能力などを鍛えるというもの
だ。結局、卒業までには20のコースを修了。意図通り、かなり多彩な分野を勉強した。
「とにかく勉強になった」と振り返る。
ポストMBAの選択肢として組織・人事系分野への転職に興味があった。だが、当
時の日本ではこのジャンルの注目度は低い。MBAホルダーの採用もほとんどなかっ
た。「時期尚早では」と判断。結局、金融業界に復帰した。
数年間、米系投資銀行に勤務した後、人事系コンサルティングファームへと転職。
M&Aのデューデリジェンス、給与・福利厚生体系、年金などに関するプロジェクト
に携わり、希望した仕事は一通りできたもののどうしても満足できなかった。「この
ままでは日本の大企業を変革していくようなビッグ・プロジェクトを手がけられない」
。10数人規模という少所帯企業の限界を感じた。
その後、米系大手コンサルティングファームに移る。クライアントには日本の大企
業も多かった。ここでは「別の視点からプロジェクトに携わることができた」と自負
する。
気が付くとMBA取得から10年経っていた。ビジネススクールを卒業した際の決意
がふとよぎった。「10年を区切りにアカデミックな環境で改めて勉強し直したい、新
たな出会いや学びを通じてさらなる自己実現に挑みたい」。
2月からは準備を兼ねて渡仏。いよいよ6月から本格的な留学が始まる。コミュニ
ケーション論、組織論をさらに深めるつもりだ。「学位は結果に過ぎない。学べると
ころはいろいろなところにある」。今は欧州を拠点にすることを考えている。
投資銀行、コンサルティングファームを通じて数多くのMBAホルダーに会ってき
た。「MBAを取得して、この仕事につけたから成功、もはや学びは終わり」とは考
えたくない。もちろん、自分にとってビジネススクールで学んだことやMBAを取得
したことは有意義であったが、それが全てではないと認識する。
「もっと柔軟に生きたい」。一つひとつの出会いや経験を積み重ね、新しいことへ
チャレンジし続けることを大切にすることが『キャリア形成』につながるはず。そう
信じている。