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MBAドリル
eラーニング「通勤大学MBA実践講座」

 

国際経営・組織・事業コンサルタント

永田公彦氏

(プロフィール)

1982年西南学院大学文学部卒業後、JTBに入社。13年間勤務した後に同社を退社 し、リヨン・マネージメント・スクールにてMBAを取得。97年よりリヨン商工会議 所アジア担当コンサルタントとして現地公的機関の立場から多くのアジア系企業のフ ランスへの直接投資プロジェクトおよび投資後の経営をサポート。フランス系中堅医 療機器メーカーのCOO(最高業務責任者)として経営ターンアラウンド(企業再生) ミッションを完結させ独立。以後、信頼性の高い複数の欧州系コンサルティングパー トナーとの協力関係の下に、科学・医療・化粧品・機械・自動車・エネルギーなど幅 広い産業分野のクライアントをサポートしている。リヨン第一大学、リヨン工科大学 院、リヨン・マネージメント・スクールなどで特別講師も務めた。

 

世界に先行する拠点で自分の付加価値を高めたい

 1990年代前半から、日本のビジネスパーソン像に新たな流れが到来する予感があっ た。『組織依存型から個人発信型へ』『会社従属から会社と個人の相互契約へ』『同 質から多様化へ』『ナンバーワンからオンリーワンへ』『知識偏重から思考力重視へ』 『就社からミッション契約へ』。

 このまま日本の大手企業でサラリーマンを続けるよりも、こうした要素が社会の根 底に根付いている欧州に身を置き、それらを日本人として先取りする必要があるので はと感じた。MBA留学は、そのステップであった。

 留学先には、フランスを選んだ。30代を迎え、好きなフランスと日本を行き来しな がら仕事・家族・プライベートの全部を楽しみたいと思い始めた。「フランスは私の 人生ビジョンを最も実現しやすい土壌にある」と感じた。

 しかも、ネット関連ビジネスならシリコンバレー、金融ならロンドンやシンガポー ルといったように、キャリア領域やテーマの先進地域にビジネスの本拠地を構えたい という思いもあった。『異文化間アライアンス経営』『グローバル組織開発』『異質 で自立した個の人材開発と組織マネジメント』という3つのテーマを極めるには、世 界で最も先行する欧州、それも「フランスに本拠地を構え切磋琢磨することが自分の ポジションを確立し付加価値を高めるために最良だ」と考えた。

 マネジメントスクールの選択についても別段悩まなかった。『ブランドより中身』 『投資効率』という視点を重視し、リヨン・マネージメント・スクールへの入学を決 めた。

 「インシアードなどに比べ日本も含め国際的に認知度が低いと思うが、フランスの 経営系グランゼコールの雄の1つとして卒業生も各界で活躍しておりネットワークが 強い」。戦略論や数量分析に偏重せず、リーダーシップ、自己変革、異文化間組織マ ネジメントなど『人』に関わる分野にも力を入れ、グループプロジェクトによるケー スメソッドが中心であることやバイリンガル(英語とフランス語)で行うという点が 決め手になった。しかも、私費留学に加え当時乳飲み子(12カ月)の長男を連れ家族 で無収入で1年を過ごす必要があっただけに、投資を極力抑えかつポストMBAのリ ターンを高めるという点でもリヨンはパリより物価が安く理想的であった。

 「リヨン・マネージメント・スクールでは経営全般の技術論に磨きをかけたが、そ れ以上の 収穫があった」と振り返る。莫大な数のグループプロジェクトの過程で得た『自分を 生かそうとする貪欲さ、それを生かすための思考・コミュニケーション能力』と、グ ローバル経営や異文化間経営論の討議と実践演習で得た『自分の国籍や文化背景を乗 り越えた地球的な視点から物事を捉え取組む姿勢』を学べた意義を痛感している。

 MBAプログラムの最終セッション(3カ月間)で、国外提携校への留学、起業プ ランの作成、企業・公的機関でのインターンシップという3つの選択肢が与えられた。 「国際経営分野をフランスの組織で実地研修したい」と考えていた矢先に、リヨン商 工会議所でアジア関連プロジェクトのインターンを探していると紹介された。

 さらに、幸運にも研修終了直前には同機関から「今後も続けないか」とのジョブオ ファーがあり、「政治・行政・企業との中間に立つ機関だけにフランスだけでなく欧 州全体のことが広く理解できるのでは」「アジア各国企業のフランスへの投資プロジェ クトへの参画と投資後の経営サポートというミッションが、国際経営分野コンサルティ ングの第一歩として貴重な経験になるのでは」と確信。EU国籍以外では初の正式職 員として契約した。

 リヨン商工会議所で4年目を迎える頃には、20もの企業のプロジェクトサポートを 手掛けていた。「コンサルタントとしてさらに磨きをかけたい」という強い思いから、 職と収入が約束されていた公職を思い切って離れ、起業へのステップとしてフランス の中堅医療機器メーカーに転身した。ポストはCOO、与えられたミッションは企業 のターンアラウンドを完結させること。これを1年で目途をつけた。

 期待以上の成果をもたらすことができた自信を礎に、その後独立した。「独自のコ ンサルティング哲学・ビジョン・戦略を発展させるためにも、性格的にも自由・自立・ 自律の環境が必要だった」。

 コアとなる事業領域は、『国際アライアンス−M&A、戦略提携、ジョイント・ベ ンチャー』『国際進出プロジェクト』『国際投資・進出後の経営およびターンアラウ ンド』『異文化間経営』分野のコンサルティング・トレーニング。それでも当初は試 行錯誤の連続であった。軌道に乗り出したのは2年目の半ばごろから。クライアント は、欧州企業だけでなく日本企業や公的機関にも広がった。パートナーも欧州各地、 日本にとどまらず、中国、オーストラリアなどアジアパシフィック地域に拡大しつつ ある。

 「今後はさらに日本企業へのサポートを拡大したい」。現在、ある欧州企業の日本 法人のチェンジマネジメントをサポートするために日本へは年4回程出張する。でき ればもっと日本での滞在日数を増やし、『グローバル人材・組織開発』『企業変革の ためのチェンジエージェント開発』に向けたコンサルティングや教育サポートを拡大 したいと意気込む。「これまで欧州企業のクライアントやパートナーとの接点で得た、 これらの分野の経験や知識は日本企業が弱い部分でありながら今後最も必要とされて くるはず」。そう強く確信している。

 渡仏して10年目を迎える。フランスのビジネスパーソンからは多くを学んだ。キャ リアマネジメントに対する考え方も影響を受けた。「ミッションに対するコミットメ ント。文化的行事や社会活動などを通じたネットワークへの積極的な参画意識。そし て何よりも、仕事に留まらずプライベートな面も最大限エンジョイしようとする姿勢 を大切にしている」。いずれも日本のビジネスパーソンに今、問われているキーワー ドばかりだ。

 世界に先行する拠点で確立された価値が、混迷の日本を導く原動力となることを期 待したい。

 

今回のキーワード「コミットメント」

 転職の成功には、結果を出すことが求められる。プロならば、与えられたミッショ ンをぜがひでも実現しなければならない。もちろん、無理と思われるような課題まで も解決策の提示をと言われることもあるだろう。どこまでコミットメントできるかという人間 力が最後には問われてくる。

(取材・文/袖山俊夫)      

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