いくつかの外資系企業でキャリアを形成してきた保坂健一氏。米国会計基準に精通、優れた語学力、MBA流の経営管理知識・経験を持ち合わせるエキスパートだけに、大手外資系企業の日本法人数社のCFOを手がけてきた実績を持つ。
「外資系企業のコントローラー、CFOは魅力が大きい。財務面のみならず事業企画や事業変革にも携わり、企業経営に対する積極的な提案ができる役割を持っているだけに、やりがいを感じます」
新卒で入社した頃から、こうした方向性を描いていたわけではない。大学で工学系を専攻したこともあり、情報システム部門に配属。システムデザイン、プログラミングに没頭していたが、もっと幅広い分野で自分の潜在能力を顕在化させたいという思いが強まり、MBA留学に挑んだ。
「コロンビアビジネススクールでは、生涯2度と経験できないと思い、全力で勉強しました。それも勉強のための勉強でなく、社会や会社に戻ってからも実際に使えるものが多かったので楽しくて、しかたなかったですね。それに、自分のキャリアを自分で開発しようと真剣に考えているクラスメイトの姿勢からも多くの刺激を受けました」
帰国後も保坂氏の環境は恵まれていた。社内の自己申告制度を生かして、企画部、営業部、財務部、人事部と多くの部門を数年単位で一通り経験できた。
「書籍やスクールで学ぶことには限界があります。ビジネススクールでケーススタディはやってきましたが、実際の現場で体験することが大切だと考えました。人間は、3年、4年がんばれば、一応その分野のプロになれるはずですから」
いくつかの主要部門で業務経験を積み重ねながら、向き不向き、やりがい、楽しめるかどうかを把握していく。その上で、30代半ばには自分の進むべき分野を見極め、40歳前後には管理部門の部長職に昇格したい、それが保坂氏のキャリアプランであった。
結局、保坂氏はファイナンスを自分の専門として選択。目標時期より数年遅れ44歳で、外資系通信機・半導体メーカーのコントローラー(部長)に就任。以後、3つの企業でCFOとしての活躍を続けている。
「まずは、自分のキャリアゴールを設定することです。いつ頃には、どのような部門のどんなポジションで活躍したいのかを明確に設定すべきです。次に、そこに到達するために、これからの5年、10年で何を経験すればよいのかを考えなくてはいけません。MBA、転職、社内転属など生かせるフックは色々あるはずです。その上で、5年刻み程度でキャリアの再確認をしていく必要があります。キャリア開発も、仕事と同様plan-do-seeの繰り返しなのです」
現在、保坂氏は米国ハイテク企業の日本法人の執行役員を務めるが、今後もCFOとして同社のトップ・マネジメントの一翼を担いたいと抱負を語る。さらには、財務会計、管理会計、コーポレートファイナンスに携わる人材育成にも関心が高い。
「自分のキャリアゴールの達成は大変ハッピーなことですが、なかなか実現が難しい時代になってきました。それだけに、20代、30代から自己のキャリア開発に真剣に取り組むべきだと思います」
後進の芽を伸ばしたい、それはキャリアゴールを目指し、達成する喜びをより多くのビジネスパーソンに感じてほしいという保坂氏の思いの現われかもしれない。