「コンサルティング業界に携わるならMBAを取得すべきだとアドバイスされたこともありますが、とにかく20代の時にはいろいろな所へ行きたいという思いが強かったです。もちろん、学校なので卒業はしなくてはいけませんから必死に勉強しましたが」
25歳でハーバード大学経営大学院(以下、HBS)に留学した出張氏。それまでの実務経験が少なかったこともあり、授業を理解するのには苦労した。20年たった今になってようやく、「ビジネススクールで学んだことはこれだったのか」と実感することが多いと言う。HBSに集積された、経営に関する優れた歴史、知識、ノウハウを今改めて反趨する日々が続く。
自立、独立して生きていきたいという漠然とした思いは小さい頃からあった。MBAを取得後、外資系金融機関に勤務しながらもきっかけは積極的に探していた。ただ、「起業」という明確なイメージを思い描いていたわけではなかった。だが、ある出会いをきっかけにMOUS(Microsoft Office User Specialist、 2003年に「Microsoft Office Specialist」と改称)試験の事業化の機会を獲得。偶然起業することとなった。コンサルタントとして活躍していた友人が、マイクロソフトのオフィス製品を対象とした資格試験プロジェクトへの参画を勧めてくれたからだ。
「まさか、自分が起業するとは思っていませんでした。でも、実際に始めてみたら毎日が新しい発見や気づきの連続。今までの期間、本当に多くのことを学ばせてもらえたと思っています」
1996年にオデッセイ コミュニケーションズを設立し、翌年から日本における「Microsoft Office Specialist」(旧称:MOUS)を実施。また、98年に米国Microsoft社が、本資格制度の世界的な運営を米国Marketshare社(現・Certiport社)へと委託した後は、米国Certiport社と戦略的パートナーシップを結び、日本での試験の運営を引き続き実施。以来、受験者は急増し、今ではPCエンドユーザー向けの日本最大級の資格試験にまで拡大した。
2002年には、特定ベンダーの影響を受けることなく、コンピューターやインターネットの基礎知識やスキルを判定・証明する新しい資格試験である「IC3」(INTERNET AND COMPUTING CORE CERTIFICATION)もスタート。ITの資格事業を中核に、ITを活用したコミュニケーションスキルの向上に貢献するとともに、グローバルなネットワークづくりの支援も進めている。
最近ではコンピューターを使った試験以外のビジネス分野への進出も意図している。出張氏は「将来的にはさまざまな分野の事業に取り組み、社会に貢献していきたいですね。そのためには、もっと会社を大きくしたい、お金もたくさん稼ぎたい。やはり社会に貢献していくためにも、経済的な裏づけが大きく影響します。ただ大切なのは、お金をどう使うかでしょう。経済的に成功している人が、文化や環境問題などをも含めたいろいろな事柄を掘り下げながら、関心を持って日本の社会に貢献していくことが、本当の成熟につながるのではないかと思っています」と話す。
世界的なデジタル化と国際化がますます進展し、日本人の価値観が大きく変 わろうとしている。「長所は世界中の国々からどんどん学ぶべきです。でも学ぶ過程において自分なりの基準を持っていないと、流されてしまうものです。それでは、ビジネスを成長させたり、自分なりの生き方をすることなどできません」と指摘する。
HBSで競争のみの米国社会の縮図を凝視してきただけに、日本、そして日本人だけが持ち得る良さ、強みをもっとしっかりと受け継いでいきたいとする思いは人一倍強いようだ。その思いが会社の新聞広告に「日本を知り、日本人として生まれた自分をよく知ること」というコピーを選んだことに象徴されている。