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株式会社ライトワークス

取締役COO

田中裕樹氏

(プロフィール)

1967年生まれ。京都大学工学部卒業、東京大学工学系大学院修了。大手食品系企業に入社し、7年間勤務。生産企画、人事企画、海外事業の立ち上げに従事。在職中に、米国テキサス大学オースティン校マコームズ経営大学院に留学し、経営学修士(MBA)を取得。99年、グロービスに入社。ビジネススクールの事業企画、開発管理、ベンチャー企業支援等に携わる。2002年より現職。

 

現場からビジネスを創造していく面白さを実感したい

 2001年9月に設立されたベンチャー企業、ライトワークスは、企業へのeラーニングの導入、運用、組織への定着を通じて、能力開発と生産性向上を支援している。田中裕樹氏は、同社設立後間もなく参画。以来、取締役COO(最高業務責任者)として業務全般を指揮する。

 「社会的な活用やビジネスにおいて、IT(情報技術)は多大なニーズがあるが、まだうまく使われているとは思えない。お客は、かなり高い買い物をしているというのが実感。生産性の尺度からしても、米国との差は大きい。微力ながらも、何とかしたいという使命感がある」

 バックグラウンドが工学系であったこともあるが、早い時期からITには興味を覚えていた。「ITを使って、新しいビジネスの仕組みができないものか」と。大学院修了後に入社した大手食品企業で工場勤務をしていた頃、「オペレーションにコンピューターを活用することで、現場の生産性はもっと向上できるはず。今後はこれだ」と確信。「最先端を行く米国で勉強したい」と社内の留学制度に手を挙げた。

 だが、当時はまだ同社の技術系部門からMBA留学するものは皆無。上司からも、「なぜ、あえてMBAなのか? 意味がない」と反対された。それでも、海外で一度は勉強したいという想いが強かったこともあり、人事部に働きかけ『情報マネジメント系(MIS)に強いビジネススクール』として名高いテキサス大学オースティン校マコームズ経営大学院に留学した。

 「できることなら、もう一度行きたいほど。マコームズで味わった感激は、今振り返ってもワクワクしてくる」。MIS科目を中心に受講していた田中氏だが、最も関心を持った講義は『コンピューターサイエンス」。実務を意識しながら、ロジックを組み立てる面白さを堪能した。また、当時米国で株価が急上昇していたこともあり株価上昇の仕組みを解明すべく「ファイナンス」の選択科目も履修。2年次には、オースティン市がバックアップするインキュベーション機関で地場のIT系ベンチャー企業の支援をするという経験もした。

 アントレプレナー志向の強いクラスメイトが多かった。あくまでも自分で考え、徹底的に自己主張する彼らの生き方には何度もショックを覚えた。「自分のキャリアをどうするかも含め、もっとしっかりと考えなくては。どんな情報にも自分なりのスタンスで客観的に説明できるような力を身に付けたい」。そう意識せざるを得なかった。

 MBAを取得後、海外事業部に復帰。MBAで培った問題解決力を生かし、海外法人・工場の設立、ライセンス契約、企業買収など海外事業の立ち上げに参画。だが、「社内でキャリアアップしていくには制約が多い。このまま30代を生きるには、余りにもじれったい」と転職を決意。1999年にグロービスに入社した。コンサルタントへの転身も視野に入れたが、「現場でビジネスを手掛けつつビジネスを大きくする仕組みを考えたい」と成長性を感じたグロービスを選んだ。

 同社では、ビジネススクール事業の企画・運営、カリキュラム設計、企業研修における講師を多数務めた。教育ビジネスの重要性と難しさ、社会における教育需要の高まりを認識するに連れて、ある疑問が浮かんだ。「フェース・ツー・フェースという手法では、果たして需要に応えられるだろうか。その教育効果も含め、限界があるのでは。ITを活用して新たな教育の仕組みを構築できないか」と。田中氏は、グロービスが他2社と設立した「ライトワークス」に参画。グロービスの職務と兼務しながら同社の立ち上げに奔走した。

 「ITと教育を括った製品、サービスを作っていきたいが今の企業レベルでは、まだまだ不十分だ。売り上げを数十億円規模までもっていかねばならない」。ITの可能性を模索したいとする田中氏は、2002年にグロービスを離れ、ライトワークスの事業に専念することを決意。自分たちのビジネスモデルを確立するために、最前線で指揮を取る。「ITを駆使して個人が継続的に能力開発でき、企業が競争力を維持できる仕組みをつくりたい」と田中氏は結んだ。

今回のキーワード「腕前」

 マコームズ経営大学院に在籍中、休日にはクラスメイトが開く料理教室に何度も通っていたという田中氏。「洋食は結構得意ですよ」と笑顔で語る。私見だが経営と料理には、ある種の共通項を抱く。素材(人材・材料)の持つ良さをいかに引き出すか、仕上げた料理(製品・サービス)をいかにおいしそうに盛り付けるか、当然ながら時間や予算にも制約がある。お客様とコミュニケーションをしながら、次につながるネタも仕込まねばならないだろう。「10年か20年か先には、ペンションのオーナーにでもなって別のライフワークを手掛けたい」と夢を語る田中氏だが、しばらくは経営での腕前が試される日々が続きそうだ。

(取材・文/袖山俊夫)      

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