日経Biz GTF

日経BizGTF

MBA流キャリアマネジメント塾
MBAドリル
eラーニング「通勤大学MBA実践講座」

 

ファイナンシャル・アドバイザー

アイ・キャピタル証券 百十四ベンチャー育成投資事業有限責任組合

高木 知巳氏

(プロフィール)

 1986年早稲田大学卒業。同年大手ベンチャー・キャピタルに入社。91年ロンドン大学経営大学院を修了し、MBAを取得(自費)。外資系メーカー、米投資銀行を経て、2000年からコンサルタントとして独立。主にアドバイザリー業務に従事。01年アイ・キャピタル証券監査役に就任し、その後同社で百十四ベンチャー育成投資事業有限責任組合を担当。現在、デジタルフォレスト取締役も兼務する。

 

20代の原体験が30代、40代に生きてくる

 「経営のプロを目指す人は、なるべく早いうちに人を使う経験を積むことが重要です。その結果、自分が人を使うのに向くか向かないかが分かります。これを若いころに経験することは、その後に大きな影響を及ぼすはずです。もちろん、失敗を積み重ねることでしょう。でも、20代はそれでも良いのです。海外のエリートも皆同じです。20代の原体験が30代、40代に生きてくるのですから」

 こう語るのは、ベンチャーキャピタリストとして活躍するほか、幾つかの企業の役員を兼務する高木知巳氏だ。高木氏は現在、企業の資本政策・財務戦略立案に携わっている。

 高木氏のキャリアの2つの原体験も、彼の20代にある。

 1つがベンチャーキャピタル(VC)での経験だ。大学での就職活動中、たまたま手にしたのが、あるVCの会社案内。「資金を投資する立場なので、コンサルティングよりコミットメントの高い仕事ができるはず。経営の勉強にも必ず役立つに違いない」と入社した。まだVCの名前すら定着していない時期であっただけに、業務内容を理解してもらうための苦労が続いた。そうした日々を通して、VCのイロハを学んだ。

 もう1つはMBAでの経験だ。新卒で入社したVCが株式公開したことで得た資金をもとに高木氏は25歳、社会経験3年で希望していた海外ビジネススクールへの自費留学を果たす。選んだのはロンドン大学経営大学院(London Business School)。

 「日本人以外はほとんどの学生が自費。誰もがキャリアは自分で作るもの、自分の責任でビジネススクールに行くという姿勢が徹底していました。借金をして来ている学生も大勢いました。入学手続きの日に銀行が出張して来るほどです。確実に、自己への投資ですよね」。キャリア形成に対する意識を覚醒させられたと高木氏は指摘する。

 ビジネススクールでは、多国籍プロジェクトを通じて得難い経験を積んだ。さまざまなバックグランドの人材が目的に合わせてチームとして行動し、成果に結び付ける。国際的なビジネスを手掛けたいとする高木氏にとって、刺激にあふれる毎日だった。しかし、クラスメートはいずれもエリート中のエリートばかり。最初の頃は、まさに付いていくのが精一杯だったという。

 「屈辱感、劣等感を感じる日々でした。世界には頭がいい奴がいるものだと思いました。大学進学率の低いヨーロッパでは大学を出ているだけでもエリート。ましてやトップビジネススクールに来ているのは、その中でもエリート中のエリートですからね。加えて、自分は実務経験が少なかったので、その後の修得度や吸収度にはかなり影響したといえます」

 高木氏が特に困ったのが、どうやって成果を上げる組織を作るかを学ぶ「組織理論」という科目。メンバーの中で唯一入学前に部下を持ったという経験がなかったからだ。それでも2年目からは、自分の存在を示し学校にも貢献できようになった。

 「クラスではなかなか貢献できないので(笑)、先輩留学生が始めたJapan Clubを引き継ぎ、英国に関係の深い日本企業のトップに学校で経営戦略、ビジョンを話していただく活動を始めました。当時、日本的経営への関心は高く、好評でした。一方、『これはバブルだ』と喝破する学生もおり、今思うとその高い見識に敬服します。また、中小企業経営(Small Business Management)の発表で最高のプレゼンだったと同級生から拍手喝采を浴びたのもその後の自信につながりました」

 MBA取得後、高木氏は外資系メーカー企画室部長、米投資銀行駐日代表として活躍。VCとMBAという20代での経験を生かし、30代の後半にファイナンシャル・アドバイザーとして独立する。

 「将来は自分で起業したいという希望は、以前からありました。ただ、まだ自分にはこういうビジネスをしたいという強烈な思いがありませんでしたね。創業する人は、エネルギーのレベルが違います。仕事柄、身近にそういう人々を見てきましたので、自分にはまだまだ、それだけのパッションは持ちえていないのではという気がします」

 それでも、「いつかは自分も」というビジョンは描き続けている。

 「まずは今かかわっている、さまざまな仕事に対して自分の責任を果たし、成功へと導きたいのです。その上で、自分でも経営に携わることができればと考えています」

 40代を迎えた高木氏だが、20代での教訓を生かし磨いたビジネスの嗅覚を発揮し、さらなるキャリアの飛躍をと意気込みをみせる。

今回のキーワード「原体験」

 20代をどう過ごすかは、ビジネスパースンとしてのその後の成功に大きな影響を及ぼす。あふれる体力、気力を生かして目一杯働いてみることだ。5年もすれば仕事に対する意識、スタイル、ノウハウが自ずと認識できる。極限までがんばった経験は、自信へと昇華する。ビジネススクールは、それからでも遅くないのではないだろうか。何事にも「旬」な時期がある。

(取材・文/袖山俊夫)      

Copyright 2004 Nikkei Human Resources, Inc., all rights reserved.
Global Taskforce K.K., all rights reserved.
日経Bizキャリア グローバルタスクフォース 日経BizGTF