日経Biz GTF

日経BizGTF

MBA流キャリアマネジメント塾
MBAドリル
eラーニング「通勤大学MBA実践講座」

 

オーストラリア連邦政府投資促進庁

北東アジア投資促進局局長

安達 健氏

(プロフィール)

1987年上智大学法学部卒業。豪州国立経営大学院(NSW大学AGSM)に留学し、MBAを取得。コンサルティングファーム、不動産コンサルティング会社、投資銀行、証券会社など幾多の外資系企業を経て03年3月から現職。40歳。

 

自分の信念を徹底して貫く生き方ができる人間力を養う

 コンサルティングファームに不動産コンサルティング会社、投資銀行、証券会社。いずれも外資系の花形企業ばかり。経歴を見れば、誰もがうらやむ華々しさだが、本人は「日本企業に就職しても性格的に合わないのではと思っただけ」。あくまでも「細かいことを言われるより、結果を見てくれという環境の方が好き」という通り、幅広い分野で様々な専門知識を身に付けるとともに成果を出してきた。その根底にあるのは、マイウェイを貫きたいという強い意志だ。

 大学在学中から豪州と縁があった。大学1年次の3週間留学、4年次には1年間の交換留学生として現地で学んだ。80年代、日本経済が栄華を極め学友らはこぞって日系企業に就職する時代。「このまま自分も同じ流れでいいのだろうか」と、あえて別の道を選択した。「早めにMBAを取得した方が、その後のキャリア形成にも有利では。英語力習得とビジネス知識習得の一石二鳥になる」。豪州連邦政府国費奨学生として、豪州国立経営大学院(NSW大学AGSM)に留学した。

 2年間はハードワークそのもの。削れるのは睡眠時間だけという猛勉強を続けた。「当時は米国が主流、豪州に行くのは亜流という評価。プレッシャーを自分にかけるしかない。法学部卒業生にとって、すべてが新しく学ぶ科目ばかりというハンディも」。負けたくない、闘うしかないという思いがつらさをはねのけた。

 ポストMBAのキャリア戦略として、20代で3つの業界を経験することを決意。コンサルティング、不動産、金融、違った領域の中で自分の可能性を引き出してくれるものは何か試してみたいと思った。

 89年、まず外資系コンサルティングファームに入社。戦略コンサルティングに従事し、国際間のプロジェクトを担当する。まさに、日本はバブル絶頂を謳歌するころであっただけに、仕事で接した日本人経営者からは「日本で活躍すべき。海外で働くのは、楽をしたいからか。非国民だ」と指摘されることもあったという。だが、海外からの視点に立つとどうしても日本のビジネスモデルが正しいとは思えなかった。

 その後は、思惑通りに不動産コンサルティングで商業不動産がらみのM&A、投資銀行で不動産の小口証券化を手掛ける。「順調にキャリアチェンジできたのは、若さとMBAという基盤があったから」。

 1993年には外資系銀行に入行。資本金融市場部門のドル・ブロック・デスク設立のため、系列の証券会社東京支店に勤務する。「30代は金融で勝負だ」。持ち前のチャレンジ精神から、一生懸命走り続けた。成果に応じたボーナスも多額であっただけに、稼ぎに稼いだ。映画「ウォール街」を連想させる毎日。頂点は35歳。まもなくストレスが極限を迎えたころ転機が訪れる。「人間って、お金だけでいいのか。このままの自分で」と価値観が揺らいだ。

 自分に疲れを感じ、人生をじっくり見つめ直したいと思い始めた時期でもあった。「バランスなのか、ピュアなものを求めたい」。約3カ月の休暇、ニュージーランドで徹底的に釣りに没頭した。

 02年夏には同社を退職。そのままニュージーランドで充電生活に入った。「釣り仲間と人間論、人生論を語り明かすなかで、ベーシックな自分を見直すことができた」と振り返る。

 現在は豪州連邦政府の投資誘致機関で、北東アジアを拠点に競争優位性のある企業へのビジネス支援を統括する立場にある。「お金のためだけではなく、国のために何かビッグなことをやりたくなった。たまたま恩師が、これなら奮い立つのではと知らせてくれたおかげ」と笑う。

 仕事については「豪州のGDP(国民総生産)は毎年4%づつ成長している。労働時間ではなく、プロダクティビティー(生産性)を重視する国。誰もがガンガン遊び、ガツンと働く。バブル以後の日本の在り方を考えると、日本が豪州に学ぶことは多いはず。目を輝かせる日本の若手経営者らと、国にインパクトあるプロジェクトをやれるのではという面白さがある」と強調する。

 「下町育ちで帰国子女でもない自分が今こうしたポジションに就けたのは、MBA留学のころに現地学生と互角で闘える環境を通じて得たもの。やはり最後の紙一重は人間力。それが成功・失敗の分岐点になる。歩んできた道は正しかったはず」。自分の信念を徹底して貫く、その姿勢はこれからも変らない。

今回のキーワード「エナジェティック」

 浅草生まれの生粋の江戸っ子。三社祭りでは、幼少の頃から御輿担ぎに熱中していたエネルギーは、今もビジネス、趣味にと満ちあふれている。アクションも早く、前向きだなという印象を与える。といって、日本企業の営業部門で見られがちなタイプのリーダーとも違う。そこには世界観、幅の広さがある。

(取材・文/袖山俊夫)

Copyright 2004 Nikkei Human Resources, Inc., all rights reserved.
Global Taskforce K.K., all rights reserved.
日経Bizキャリア グローバルタスクフォース 日経BizGTF