≪連載・・・『定義を定義する』A≫
〜☆2.できる(はずの)ビジネスマンができない理由?〜
〜現場の話題、落とし穴、失敗などに注目して考えるコラム〜
『結果が出ない理由』 前回のコラムでは、ロジカルシンキングの重要性について悩んでいる人事担当者のお話(ロジカルシンキングは仕事と直結する??をしました。今回は同様に、仕事ができる(はずの)ビジネスマンができない理由について、考えてみたいと思います。
仕事の中で難しいのはやはりプロセスよりも実際に結果を出すことですよね。 以下のようなケースをよく見かけないでしょうか?
チェックリスト | ●経験は十分。25年ある。昔は結果を出していた。しかし、今はなぜか結果を出せていない。 ●MBAのコンセプトは理解した。しかし、アウトプットの中身が薄く、説得力がない。 ●ロジカルシンキングをマスターした(つもりだ)。ところが、いつも提案がずれている。 ●コーチングを学びコミュニケーションの重要さを認識した。しかし、なぜか重要な場面で同僚、部下、上司などとの社内意思疎通や顧客や取引先など社外コミュニケーションがかみ合わない。
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「あっ、これ田中じゃないか!」、「これは●●社長のことだ・・・」、取引先の池田さんだ」・・・など思い浮かばれる方がたくさんいらっしゃることでしょう。
これらの症状をお感じの方がまわりにいらっしゃれば、原因の多くがお互いに活用していることばの定義(どの程度〜)の問題にあるかもしれない、ということを疑ってみることが必要かもしれませんね。
ここで、一度ゼロベースで『仕事で成果を出すためにはどのような能力が必要か』冷静に考えて見ましょう。
よく成果を上げるために必要とされ、挙げられる3つの領域です。
<前提>仕事で成果を出すためにはどのような能力⇒業務遂行能力 ※思考・・・・・・・・・・・・・ロジカルシンキング ※マネジメント知識・・・・・・・経営の原理原則:MBA ※業界・専門情報・・・・・・・・職務経験
これらを役割ごとにグルーピングすると次のようになります。
(1)意思決定するための頭脳 | 思考(ロジカルシンキング)
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(2)戦略部分 | 基本マネジメント知識(経営の原理原則・MBA)
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(3)戦術部分 | 業界・専門情報(経験)
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どうでしょうか。 実はこの3つではMECEになっていませんよね。なぜなら、上記の3つは単に『正しい答えを出すために必要なもの⇒業務遂行能力』についてのみ、指しているからです。
成果を出すために足りないもの。それは以前のアーリーバード(GTFの早朝朝食勉強会)のテーマのところでもお話が出たヒューマンスキルです。
『ヒューマンスキルの役割』 つまり、正解をつくるだけであれば、上記3つで十分かもしれませんが、正解をつくるだけでなく、その正解を相手(社内の上司/顧客)と一緒に実行させていく必要があるからですね。
よく言われる『現実の仕事の中では自分ひとりで完結するものは非常に少ない』、という、あれです。反対に、何らかの形で部下や同僚、上司や顧客いった自分以外とのコミュニケーションを通して、最終的な結果が出てくるというのが現実的でしょう。
単に『正しい答えを出す』ことではなく、それを相手(自社内・外)に納得させながら、最終目的となるアウトプットまで進めていかなければならないことで、この点は多くの方が経験積みだと思います。
改めて、『仕事で成果を出すためにはどのような能力が必要か』について並べてみましょう。
<前提>●正しい答えを出し、相手に納得させる為に必要なもの⇒業務遂行能力+人間関係能力
(1)意思決定するための頭脳 | 思考(ロジカルシンキング)
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(2)戦略部分 | 基本知識(経営の原理原則・MBA)
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(3)戦術部分 | 業界・専門情報(経験)
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(4)調整部分 | ヒューマンスキル※(感情管理:正しい答えが最適解とは限らない)
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はい。では、上記の4領域をマスターしている人は確実に成功するのでしょうか。おそらくYESでしょう。(当然グルーピングの仕方は上記のケースだけではないため、これ以外は不正解と いうことではありません。例えば、ハーバードのカッツ教授に言わせると、仕事のできる人に必要なスキルは、(1)テクニカルスキル、(2)ヒューマンスキル、(3)コンセプチュアルスキルの3つに分かれ、職務内容が高度になればなるほど、 (1)より(2)、(2)より(3)の重要性が増すということです。これについても定義により正解は一つではありません)
しかし、なぜ上記全てをマスターしていると思われる多くの人が結果を出せないのでしょうか。
『結果が出ない理由とマスターの定義』 答えは『適切に』マスターしていないからです。え?適切にという定義自体が曖昧でわからない? はい、そのとおりです。つまり、言ってみればマスターする、ということの『定義』が人によって異なることこそが問題なのです。
例えば、仕事でアウトプットを出すために、人から学ぶ過程を考えてみましょう。『(今の状況下における)ハイパフォーマーの行動様式をノウハウとして暗記をし、チェックリスト通り行動する』というのと、『なぜそのハイパフォーマーはそれらの行動様式を持ったかという理由を理解し、状況によって行動を変えられるようにする』のとでは継続的な成果の出方が天と地ほどに違いがでてきます。
単に、良い結果をだせれば良いじゃないか!といわれる方が特に中小企業のオーナー社長等に多いかもしれませんが、『今のこの状況しか結果をだせない』のと『状況にあわせて結果を出せる』のとは雲泥の違いがあります。
なぜなら、あるときの処方箋は、ある特定の環境下における処方箋だからです(環境は常に変わり続けている)。つまり、マスターする、という定義の設定により、『戦略の前提に基づいた戦術の実践』と『戦略に基づかない戦術の実践(いわゆる「ノウハウ」)』とでは差がでてきて、多くの場合は安易なノウハウ症候群に陥ります。
昔、狭義の〜〜、広義の〜〜などといった記述が授業であったのも、このように、定義によって話の趣旨が変わってくる可能性があるからです。
『定義の重要性を認識する事例』 バブル時代に利益を挙げるため、『金を借りて、土地を買えー』といっていた人が、今でも同じことをいっているのは相当希少なはずです。
成果を挙げるために仕事をしなさい、という課題を定義に落とし込んだとき近視眼的で単純な定義で考える人は、パブロフの犬と同様『金を借りて、土地を買えー』といっているでしょうし、環境の変化に気付いた時には、大きな痛手を負っている人の割合も多いのではないでしょうか。
一方、成果を挙げるために仕事をしなさい、という課題の定義として、『リスクを避け、本業における収益を中心に考える』というものが統一されていれば、行動も全く違っていたはずです。
定義を明確にする重要な例は他にも例があります。
弁護士が扱う契約書なども、まず契約書内で使われることばの定義から内容が始まりますし(これ、参考になります)、私たちの仕事の中での身近な例としては、人事評価の基準なども、定義が全てといえるほど重要なもので。
たとえば、評価の基準が単に仕事ができたかどうか、という1文ではなく職務や職能ごとに決められた複数の評価項目からなり、さらにそれぞれの項目の査定も具体的な記述で決まっています。
これも、それぞれの人が持つ判断のモノサシというものがいかに独りよがりでバラバラであるか、ということを意味しており、その主観をできる限り排除(ゼロにすることはできませんが、ゼロに近づけるということ)することを目標としているのですね。
ここまでで気付かれた方も多いと思いますが、この定義の問題、つまり『適切に』を考え、設定することは難しいことではありますが、この分野はまさにロジカルシンキングの扱う領域でもあるのです。
そして、先ほどロジカルシンキングを『意思決定するための頭脳』の役割と定義しましたが、この頭脳事態が一貫性を持って適切な基準で動かなければ、いくら演繹法や帰納法を使って物事を説明しようとしても意味がないのはわかりますよね。
その中で使う言葉の定義(どの範囲まで含めるのか)をしっかりと固めなければ議論そのものが成り立たないですよね。
朝まで生テレビで、自民党と民主党の議員が激しく口論している内容をよーく聞いて見ると、言い方は違うが結局両者とも同じことをいっていることに気付くときがありませんか?
彼らは同意しないでしょうが、主張している言葉の定義や背景が違っているために、表面的な言葉上は反対の意見に聞こえるが、結局のところ抽象化させていくと主張は同じになり、どちらかの議員の威勢が尻すぼみになっていくことを良く見かけます。
同様に『曖昧な基準』を前提に進んでいる話やレポート、提案などは意味をなしません。一度『自分はどの程度の範囲で、どのようにその言葉を使っているのか(使うべきか)』気をつけながら話をするために、次のようなことを試してみると面白いでしょう。
○あなたから部下(同僚)へ 『ちょっと急で悪いんだが、ボーダフォンの最近の事業概況について分かりやすくまとめて、至急メールしてくれないか? 私は外出してこれから連絡は付かないが、取り急ぎメールで送ってくれ。』
これをメールで出して、その結果を待ちましょう。ここにある文章の中で明確な定義がされているのは固有名詞のボーダフォンくらいではないでしょうか。
*急で悪いが・・・・ | ⇒至急?いつまで? (あなた・相手)
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*最近の・・・・・ | ⇒何ヶ月前まで? (あなた・相手)
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*事業概況・・・ | ⇒国内?海外?(あなた・相手)
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*分かりやすく、まとめて | ⇒箇条書き?コラム?抜粋?(あなた・相手)
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おそらく、この1つの質問だけで出てくる曖昧さと同様の問題が、日々の仕事の会議、アポイントメント、発表等あらゆるところで出没していることに気づきます。
驚くほど自分の考えている定義(程度)と相手の定義が違うのですね。
単に定義というと難しく聞こえますが、「相手の誤解を生まないように伝えるために具体的な定義を明確にしていく」というと、以外に意識して気をつけることができるんですよね。
ただ重要なことは、できる人はこの『定義』を超具体的に仮説思考で考え、誰よりも細かい定義に基づく見解と主張を作ることができていることが多いようです。
来月は、この定義についてより現実的かつ具体的な事例を考え、トップMBA同窓生の中でもなぜできる人とできない人が分かれるのか、その分かれ目について考えてみましょう。
※本コラムに関するご意見はこちらまで gwp@global-taskforce.net
[url:http://www.global-taskforce.net/cgi-bin/page/index_c.cgi?aid=10008&bid=10033&cid=10051:Vol.3『ハーバードの落ちこぼれ』へ
〜現場の話題、落とし穴、失敗などに注目して考えるコラム目次〜 通勤大学MBAシリーズその他の執筆を行うグローバルタスクフォースの編集部によるコラムです。体系的な知識や理論の整理を目的とするGTFの書籍群に対し、より実務的で現場よりのトピックを提供します。 ※本コラムはメンバー向けのメールマガジンの中のコーナーを加筆修正したものです
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